· 

堀畑蘭(石川)|おおらかで自然体の九谷焼

 

心がほわっとなる、ナチュラルな空気感。かわいくて親しみやすい絵柄と、手仕事を感じるやさしい風合い。

「九谷焼」といえば伝統的で重厚なイメージですが、堀畑蘭さんの器には自由で軽やかな雰囲気が漂います。


肩の力を抜いて、自分らしく過ごすー。


そんな時間にそっと寄り添ってくれそうな、愛おしい器たち。この心地よさと可愛さは、一体どうやって生み出されるのか。その理由を知りたくて、石川県にある堀畑蘭さんの工房にお邪魔しました。

 

成形から絵付けまで、一貫して作るうつわ

 

個展を控え、制作の大詰めを迎えていた蘭さん。全国から注文が殺到し、工房は絵付けを待つ器であふれていました。独立から6年。いま最も注目を集める若手作家の一人です。

 

九谷焼は分業制が基本で「ろくろ師(成形)」と「絵付師」に分かれています。けれど蘭さんは、成形も絵付けも一貫して手がける作家です。

 

学生時代は絵付けを中心に学んでいましたが、やがて全体のバランスを考えるようになりました。そして九谷焼技術研修所のデパート販売研修で、食器づくりの楽しさに気づきます。

 

「自分が作ったものがお客さまの手に渡る瞬間が楽しくて、私の進む道は『食器づくり』だと思いました」

独立前、蘭さんは、一人の職人が成形と絵付けの両方を手がける九谷青窯で修行を積みました。2024年に惜しまれつつ閉窯しましたが、実力ある作家を多く輩出した名窯です。

 

ここで器を作りながら料理を盛り付けた際の余白を意識するようになり、「食器」について深く考えるようになります。

 

3年の修行を経て2020年に独立。28歳で自分の工房を建てました。若くして独立し工房を構えるには、相当な覚悟が必要だったはず。

「怖かったけれど、早く自分の場所がほしくて決心しました」

 

すでに顧客がついていたことも後押しとなり、本格的に作家として歩み始めました。 

 

蘭さんの描く線に迷いがない。スイスイと筆を滑らせる
蘭さんの描く線に迷いがない。スイスイと筆を滑らせる

デンマークで学んだ「自分を大切にする」文化

研修所を卒業後、蘭さんはデンマーク・ボーンホルム島にあるフォルケホイスコーレに短期留学しました。

フォルケホイスコーレは「人生の学校」とも称される北欧独自の教育期間。研修所時代に作家・森岡希世子氏と出会い、デンマークへの留学を考え始めたそう。


「思い立ったらすぐ行動するタイプ。卒業してすぐデンマークに行ってフォルケを見学し、ボーンホルム島の文化や風土に引かれて留学を決めました。異文化にふれ、九谷焼から一度離れて学びたかったんです」

石川県に生まれ、高校では工芸科に進学し、研修所で九谷焼を学んできた蘭さんにとって、外の世界に触れることは必要なことでした。さまざまな作家のもとで学びながら留学資金を貯め、1年後にデンマークへ渡ります。

ボーンホルム島はバルト海に面した自然ゆたかな小さな島。若者からシニアまで、幅広い世代が集まる学校でした。ガラスと陶芸のコースを選択しましたが、ここで学んだのは「生き方」そのものだったと言います。

「自分を大切にする」という価値観

 

「学校ではブレイクタイムが多く、時間に対する価値観が大きく変わりました。制作に没頭していても『いまは休む時間よ』と言われるんです(笑)」

 

自由にのんびり、好きなものを作る4ヶ月。この時間は蘭さんの意識を大きく変えました。

 

「デンマークにはHygge(ヒュッゲ)という言葉があります。心地よい時間や安らぎという概念。自由に過ごした時間は、『自分が一番大切』という感覚を教えてくれました」

 

この意識の変化は、蘭さんの制作にも大きな影響を与えました。北欧ではジャパニズムモダンへのリスペクトも高く、クラス担任が名匠・濱田庄司の大ファンだったこともあり、日本文化の価値の再確認もできたと言います。

 

蘭さんの器には、ていねいな仕事に裏付けされた安心感と、枠におさまりすぎない自由な空気が同居しています。彼女の心くすぐる軽やかなデザインの根底には、デンマークで学んだ自由な価値観と自然体で生きる姿勢が流れています。

 

古典をリスペクトしながら、自分のものに落とし込む

 

蘭さんの作品には、九谷焼の古典柄をモチーフとしたものが数多くあります。けれど、伝統のなかに蘭さんらしさが漂い、華やかな色絵にも無垢な魅力を感じます。

 

「古典柄がモチーフとしては好きだけど、古いものをリスペクトしつつ自分のものに落とし込むようにしています」

 

新作の絵付けに取り組む時も、練習や試作はあまり行わないそう。自分が好きな古典柄の構図を異なる器に取り入れたり、心のおもむくままに筆を滑らせたり。自由な姿勢と古き良きものへのリスペクト、両方を備えているからこそ生まれる魅力があります。

 

頑張っている自分に、ごほうび時間をくれる。

力を入れすぎていないのに、存在感がある。

凝った絵付けにも、飾らない大らかさがある。

 

そんな自然体な作品は、驚くほど日常に馴染みます。

 

毎日のさりげない食事の時間。

大切な人たちをもてなす特別な時間。

自分をいたわりたい癒しの時間。

 

蘭さんの器は、どんなシーンにも寄り添ってくれます。自分を大切にすることを思い出させてくれる器です。

 

頑張っている自分に、ごほうび時間をくれる。

なにげない日々の暮らしを大切にしたい時、手に取ってほしい器です。


【プロフィール】
堀畑蘭(ほりはた らん) 
石川県金沢市生まれ

 

2013 石川県立工業高等学校工芸科 卒業

2016 石川県立九谷焼技術研修所 研究科 修了

2017 デンマーク ボーンホルムス・ホイスコーレに4ヶ月間留学 

2017 九谷焼青窯 入社 3年間勤務

2020 独立

 


現在、石川県野々市市に工房を構え作陶中