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九谷焼絵付け師・中荒江道子

豪華絢爛で大胆な図柄、原色が散りばめられた色彩。九谷焼は「使う」器というより「飾る」器というイメージを持っている人も少なくないのではないでしょうか。そうしたこれまでの九谷焼のイメージを変えてくれるのが中荒江道子さんの器です。

 

毎日の暮らしのなかで使いたい、使い勝手がよくて楽しい器。もちろん眺めて飾っても楽しいけれど、使うともっと楽しくなる。そうした魅力にみせられ、三本日和にもファンの多い中荒江道子氏の器をご紹介します。

 

 

彼女は九谷焼の絵付け師。九谷焼は轆轤(ろくろ)師と呼ばれる職人が成形した器に絵付け師が絵を描いて焼き重ねて仕上げる、分業制の伝統工芸品です。絵付け師はいわば器のプロデューサーのような存在で、どんな形にどんな絵を描くのかトータルで考えます。

 

中荒江道子さんの器は、独特の絵柄が特徴です。従来の九谷焼の派手なイメージとは違い、どこかレトロモダンで懐かしさを感じます。参考にしているのは古九谷などに見られる、古くから受け継がれている図案なのだそう。そのせいか、アンティーク品と見まごうお客さまも時々いらっしゃります。しかし、ただ古いのではなく、そこにポップな感性が加わり、中荒江さん独自のデザインに仕上げられています。

 

 

人気の秘密は、その高いデザイン性だけでなく、器として使いやすい点にもあります。器の縁には茶色の錆釉を施し、底には高台をつけることが多いのは、料理を盛り付けた時のイメージを大切にしているから。錆釉は絵画の額縁のような役割を果たし、料理全体をグッと引き締めてくれます。そして高台による陰影が立体的に食卓を彩ります。だから、どんな料理を盛り付けても様になるのです。手の込んだ前菜も、毎日食べる卵焼きも、中荒江さんの器に盛り付けるといつもより美味しく見えてくるから不思議です。

 

和食だけでなくイタリアンや中華、どんなジャンルにも相性がいいのも特徴です。「この器にはこんな料理が合うだろうな」とイメージしながら描くのだとか。そのせいか、器を購入される時に「この皿にはあの料理を乗せよう!」と宣言されるお客さまも多いです。

 

乙女心を鷲掴みにする胸キュンのデザイン、そして料理を選ばない使い勝手の良さ。この魅力にはまって足繁く通ってくださるお客さまがどんどん増加中で、時には県外から飛行機に乗っていらしてくださることも(!)。

 

 

彼女の描く線には迷いがなく、器の上を軽やかに走っていきます。厳しい修行経験と仕事への真摯な姿勢、そして器を使ってくださる方の顔を浮かべる時間。日常に届くように、思いを込めた一筋の線を走らせます。ポップな色絵が代表的ですが、近年は藍色の染付けオンリーの絵柄も増えています。単色なのに、より一層味わいが増していく中荒江道子さんの器。日々進化しているところも大きな魅力のひとつです。

 

 

中荒江道子さんは独立してまだ4年余り。まだ駆け出しだったはずの彼女ですが、独立してすぐに東京の百貨店から個展のオファーが相次ぎ、あっという間に売れっ子作家になりました。三本日和はちょうど独立するタイミングで出会い、お声をかけさせていただいてからのお付き合いです。けれど出会う前からご縁があったことが分かり、幼いころから知っているような、親戚のような気持ちで応援しています。

 

今では入手困難になってきている中荒江さんの器たち。毎年、展示会をしていただいており、2020年2月にも開催予定です。皆様、どうぞお楽しみに。

 

九谷焼絵付け師

中荒江 道子

1989年 福井県あわら市生まれ

2010年3月 京都伝統工芸大学校 卒業

2010年4月 稲葉 抱山氏に師事

2011年4月 山本 長左氏に師事

2014年 金屋町楽市審査員特別賞受賞

2015年4月 独立

2015年10月 茶房実生にて初個展

2016年日本橋高島屋にて個展

2016年9月 三越銀座店にて個展

2017年4月 日本橋高島屋本店にて個